辺境の獅子は瑠璃色のバラを溺愛する
訝しむセシリオに、ブラウナー侯爵はにんまりと口の端を持ち上げて見せた。
フリントロック式マスケット銃とは、近年火縄式銃に代わって台頭してきた新型の銃だ。従来製品と比較して不発率が低い、射撃間隔が短い、湿度に強いなどの利点がある。アハマスでも数年前から徐々に揃えはじめているが、まだせいぜい数百丁程しかないという。
何年もかけて数百丁しか揃えられなかったのに、二週間で五千丁。セシリオが訝しむのも無理はなかった。
それに、大砲だって普段から作るようなものではない。突然購入しようとしても、なかなか急に多くの数を揃えるのは難しいのだ。
「我々も持てる手を全て使って集めているのです。なにせ、ダカール国との危機的状況ですからな。いやはや、敵も思い切ったことをやらかしたものです。我が国の未来の国母を狙うとは──」
「未来の国母を?」
「エレナ=マグリット子爵令嬢のことですよ」
「なるほど」
怪訝な顔をして聞き返したセシリオに、ブラウナー侯爵はなにを当たり前のことを、と言いたげな態度で説明した。
サリーシャはその様子を、ハラハラした気分で見守っていた。