辺境の獅子は瑠璃色のバラを溺愛する
努めて冷静に話さないと、手を出してしまいそうだ。セシリオは肘を膝につき、両手を組んで手の甲に顎をのせると、静かにそう言った。
「しかしですね、先日も『争いは止めればいい』などと頓珍漢なことを言い出すし、アハマス辺境伯夫人としての素質に欠けるとしか思えない」
「アハマス辺境伯夫人が好戦的な性格では、争いが絶えなくなりむしろ素質に欠ける。彼女はあれでいいのです」
好戦的な性格の妻など、真っ平ごめんだ。年がら年中戦争しててはアハマスが潰れてしまう。セシリオが妻に望むことは、仕事で疲れて帰ってきたときに笑顔で迎えてくれるような愛らしさだった。
しかし、ブラウナー侯爵はなおも納得いかない様子で話を続けた。
「それはそうかもしれませんがね、うちのマリアンネは小さなころからアハマス卿と付き合いがあっただけあり、その辺のところがよく分かっているのですよ。サリーシャ嬢より、よっぽどアハマス辺境伯夫人としての適性があり、相応しい。それに、我がブラウナー侯爵家はアハマスにとって、なくてはならない存在でしょう?」
「……」
どの口が言うのかと、呆れてものも言えないとはこのことだ。