辺境の獅子は瑠璃色のバラを溺愛する
 フィリップ殿下とエレナを庇ったことは、今も後悔はしていない。けれど、思うのだ。どうして自分だけがこんな目に合わなければならないのだろうと。

 先ほど、セシリオはサリーシャに醜い傷があるならば妻には適さないと言った。そして、サリーシャには事実として醜い傷がある。

「ここにはもう、居られないわ」

 サリーシャは零れ落ちる涙を手で拭い、クローゼットから一番シンプルなドレス──初めてここに来たときにセシリオが用意してくれた水色のワンピースを取り出した。未練がましいが、なにか彼からの想い出を持っていきたかったのだ。それを素早く身に着けると、マオーニ伯爵邸から持参した宝石を袋に詰め込み、手に握った。

 セシリオの妻になれないとしても、彼にこの傷を見られて罵られ、軽蔑されて捨てられるのだけは耐えられないと思った。好きになった人からそんな仕打ちを受けては、もう立ち直れない。それならば、そうなる前に自分から姿を消そう。
 そう決意して手に力を込めると、右手に握った袋からじゃらりと金属がぶつかるような音がした。サリーシャはチラリとそれを見た。
 サリーシャは現金を持っていない。けれど、この宝石を売れば、幾ばくかの資金にはなるはずだ。
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