辺境の獅子は瑠璃色のバラを溺愛する

 サリーシャが馬車を出すように言うと、眠そうに目を擦っていた御者は訝し気に眉をひそめた。こんな夜更けに侍女もつけずにやってきたサリーシャのことを、流石に不審に思ったようだ。

「どうしても出かけないとなのよ。いいから出してちょうだい。一番小さいものでいいわ」

 ここで狼狽えては不審さに拍車をかけるだけだ。サリーシャは出来るだけ強気にツンと澄ますと、そう言った。御者はどうにも納得いかない様子だったが、しぶしぶと馬車の準備をし始めた。

「それで、どちらにお出かけで?」

 御者に尋ねられてサリーシャは言葉につまる。サリーシャには、行く当てなどどこにもない。こんな夜更けでは宝石も換金出来ないだろう。
 そのとき、サリーシャの脳裏に一つの場所が思い浮かんだ。かつてセシリオと行った、女子供のための支援施設だ。あそこなら、一晩の宿を貸してくれるかもしれない。この御者には宝石を一つ渡し、口止めをしよう。そう思ったサリーシャは、御者に行き先を告げた。


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