辺境の獅子は瑠璃色のバラを溺愛する
「わたくしは閣下の婚約者なのよ? そのような許可証は必要ないわ」
「しかしですね……」
そんなやり取りをしていると、サリーシャが来た領主館の方から馬に乗った軍人が一人やってきた。サリーシャの乗る馬車の横で馬を止めるとさっと馬から降り、何かを門番と話込み始めた。チラリチラリとサリーシャの乗る馬車の方を見ている。
サリーシャは嫌な予感がするのを感じた。既に自分があの部屋を飛び出してからかなりの時間が経っている。クラーラとノーラたちが自分が居ないことに気付いて、探し始めているかもしれない。もしかすると、セシリオにもそのことが報告されている可能性もある。
「ねえ、急いでいるの。早く開けて」
「もう少しお待ちください」
サリーシャは苛立った様子で開門を促したが、門は開かない。そうこうするうちに、再び馬の蹄のような音が後方から聞こえてきた。先ほどよりずっと大きな、重い音だ。その馬は馬車の後ろで停まったようで、後方から馬の嘶く声が聞こえた。そして、乱暴に馬車のドアが開け放たれる。
「きゃっ!」