辺境の獅子は瑠璃色のバラを溺愛する
サリーシャの小さな呟きを聞き、マオーニ伯爵はサリーシャが嫌がっているのだと思ったようで、顔をしかめた。
「傷物のお前を貰ってもよいと言っているんだ。しかも、伯爵だぞ。ありがたい話だ」
チェスティ伯爵は養父であるマオーニ伯爵よりもずっと年上で、既に齢六十歳を超えているはずだ。細君に先立たれ、子供達も全員独立している。子供と言っても、今十八歳のサリーシャよりもずっと年上ではあるが。もしかすると、孫が同世代かもしれない。
あまりにも予想通りの展開に、サリーシャは内心でため息をついた。
「承知いたしましたわ。お父様の仰せのとおりに」
「とてもよいお話だ。すぐに準備をすすめよう」
マオーニ伯爵はサリーシャの返事を聞くと満足げに微笑み、たっぷりと蓄えた口ひげを揺らしながら頷いた。そして、部屋から出ようとしたときに、ふとサリーシャの手元に置かれた刺繍道具に目を留めた。
「そうだ。伯爵にお会いする時までにプレゼントする刺繍でも刺しておきなさい。アルファベットとなにかモチーフを入れて……。それはお前に任せよう」
「かしこまりました」
「傷物のお前を貰ってもよいと言っているんだ。しかも、伯爵だぞ。ありがたい話だ」
チェスティ伯爵は養父であるマオーニ伯爵よりもずっと年上で、既に齢六十歳を超えているはずだ。細君に先立たれ、子供達も全員独立している。子供と言っても、今十八歳のサリーシャよりもずっと年上ではあるが。もしかすると、孫が同世代かもしれない。
あまりにも予想通りの展開に、サリーシャは内心でため息をついた。
「承知いたしましたわ。お父様の仰せのとおりに」
「とてもよいお話だ。すぐに準備をすすめよう」
マオーニ伯爵はサリーシャの返事を聞くと満足げに微笑み、たっぷりと蓄えた口ひげを揺らしながら頷いた。そして、部屋から出ようとしたときに、ふとサリーシャの手元に置かれた刺繍道具に目を留めた。
「そうだ。伯爵にお会いする時までにプレゼントする刺繍でも刺しておきなさい。アルファベットとなにかモチーフを入れて……。それはお前に任せよう」
「かしこまりました」