辺境の獅子は瑠璃色のバラを溺愛する
「実は殿下とダカール国には何日か前に親書を出したんだが、俺は一度ダカール国と接触しに、国境へ行く。犯人の炙り出しのためとはいえ、きちんと説明もなしに国境沿いに兵器を集めれば、あちらが誤解しかねない。タイタリア王国が開戦準備をしていると誤解したダカール国が先に攻めてきて、本当に戦争になったら一大事だ。ただその間、きみをブラウナー侯爵とともにここに置いていくことになる」
サリーシャはこくんと息を飲んだ。
ここにブラウナー侯爵とマリアンネとともに残され、セシリオがいない。考えただけでも憂鬱な状況だ。しかし、サリーシャはゆくゆくはアハマス辺境伯夫人になるのだから、夫が不在時の屋敷の取り仕切りもやることになる。サリーシャは一度俯いてから決意したように顔を上げ、セシリオを見返した。
「はい、わかりました」
セシリオの顔にほっとしたような安堵の表情が浮かぶ。
「いいか、この封蝋の色の意味をよく覚えておいてくれ。俺からの手紙も、王室からの手紙も、色の意味は同じだ。だが、絶対に他人に口外しては駄目だ。俺やモーリスや、限られた一部の人間以外は誰も知らない」
何がおこっているのかはよくわからないが、とても重大なことが水面下で動きだしている。この封蝋の意味を理解していないと自分が不安になるようなことがおこりうるのだということは、サリーシャにも分かった。