辺境の獅子は瑠璃色のバラを溺愛する
「よいか、サリーシャ。全て、話を合わせるのだ。決して、余計なことは言ってはならぬ」
「はい?」
「予定が変わった。もっといい話だ。あまりお待ちさせては申し訳ない。いけ」

 マオーニ伯爵はそれだけ言って再び執事のセクトルに何か指示をし始めた。使用人からお客様がお待ちしていると促されて応接間に入ったサリーシャを出迎えたのは、なぜか老人ではなく、見知らぬ若い男だった。

 サリーシャは目の前のソファーに腰掛ける男を眺めた。こげ茶色の髪を後ろに撫でつけ、貴族がよく身に着けるような上質な黒のフロックコートを着ている。しかし、貴族らしからぬ体格のよさは衣服の上からもうかがえた。
 がっしりとした、まるで衛兵かのような体躯の持ち主だ。髪もサリーシャの知る貴族男性は長く伸ばし後ろで結うのに対し、目の前の男は短く切られている。頬には古い傷跡のようなものが何カ所か残っており、もしかすると本当に衛兵なのかもしれない。年齢は二十代後半からせいぜい三十代初めくらいだろうか。

 そして、男の後ろには中年の男性が控えていた。薄茶色の髪にだいぶ白髪が混じりはじめているその男性の方が、年齢的にはチェスティ伯爵に近い。けれど、姿絵と顔が全然違っていたし、肌の感じからしても年齢はせいぜい四十歳過ぎだろう。それに、立っている位置的に彼は椅子に腰掛ける若い男の従者に見えた。

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