辺境の獅子は瑠璃色のバラを溺愛する
***


 その日の昼下がり。
 完成したばかりの中庭で本を読んでいたサリーシャは、ふと顔を上げた。季節を先取りしたような爽やかな陽気は外にいるだけで気分が華やぐ。

 見上げれば白と灰の羽が特徴的なシジュウカラが二羽、小枝で羽を休めながら寄り添っているのが見えた。その仲睦まじい様子を眺めながら、セシリオは無事に目的地に到着できただろうかと、サリーシャは遠い地に思いを馳せた。

 タイタリア王国とダカール国の間には、先の終戦時に設けられた『ピース・ポイント』と呼ばれる施設がある。
 ピース・ポイントはちょうど両国の国境線上に位置した視界の開けた地域にあり、両国がお互いに何か重要なやり取りをするときは、必ずそこを通すようにと取り決められている。
 セシリオは今朝、そのピース・ポイントへと旅立った。表向きはブラウナー侯爵がフィリップ殿下から最初に預かってきた親書に記載された『全権を任せる』という内容に基づき、何人かの部下をひき連れて国の代表としてダカール国との交渉に向かったのだ。だが実態は、こちらに戦意がないことをアハマス領主自らが伝えに行った。

「先ほど、一騎戻ってきたでしょう? セシリオ様には何もないといいのだけど……」
< 240 / 354 >

この作品をシェア

pagetop