辺境の獅子は瑠璃色のバラを溺愛する
サリーシャは小さな声で呟いた。
セシリオが出立してから一時間ほどしたころ、セシリオに同行したはずの騎士が一騎だけ屋敷に戻ってきた。セシリオの一行に何かあったのではとサリーシャは青ざめたが、ただ単に途中で馬が脚を痛めただけだという。それを聞いて、サリーシャはほっと胸を撫で下ろした。
どうか道中で何事もなく無事でいてくれればよいと、サリーシャは最愛の人を想った。
ピース・ポイントはアハマスの領地内にあるが、少し領主館からは距離があり、馬で五時間ほどかかる。すでに時刻は昼をだいぶ過ぎているので、休憩時間を考えてもそろそろ到着しているはずだ。
「セシリオ様はそろそろ、お着きになったかしら? 早く帰ってきて元気なお姿を見せて欲しいのに」
「そろそろお着きになる頃ですわね。でもサリーシャ様、今朝出たのですから、まだ帰るのには早いですわ」
向かいの席で本を読んでいたノーラがくすくすと笑いながら答える。
「わかってるわ。けど、そう思ったのよ」
サリーシャはなんとなく気恥ずかしくて口を尖らせた。