辺境の獅子は瑠璃色のバラを溺愛する
 ***


 夕食時、サリーシャは胃の痛い気分だった。日中にあんなやり取りをしながら、セシリオが不在の中マリアンネとブラウナー侯爵と夕食を共にするなど、憂鬱以外のなにものでもない。セシリオがいない間は毎回モーリスが同席してくれることになっているのが不幸中の幸いだった。

「サリーシャ嬢。あなたには分からないかもしれないが、国境警備を担うアハマスにとって、武器や防具というのはなくてはならない存在なのですよ」

 一言も発せずに目の前の料理だけに集中していたサリーシャは、斜め前に座るブラウナー侯爵から突然投げかけられた言葉に、ビクンと肩を揺らした。昼間の出来事が脳裏に浮かび、ついにきたと思った。
 顔を上げて正面を見ると、マリアンネは澄まし顔で淡々と食事を口に運び、ブラウナー侯爵は元々細い目をさらに細めてこちらを見つめていた。

「武器や防具がないアハマスなど、剣を取られた剣士、針と糸を取られた針子、牙と爪を失った獅子……。この意味がお分かりかな?」

 サリーシャは何もわからないといった様子で、曖昧に微笑み返した。
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