辺境の獅子は瑠璃色のバラを溺愛する

「わたくしに、難しいことは分かりませんわ」
「随分と察しの悪いお方だ。これでは、やはりアハマス辺境伯夫人としての適性に欠けるとしかいいようがない」

 ブラウナー侯爵はこれ見よがしに大きなため息をついた。

「アハマス辺境伯家にとって、ブラウナー侯爵家は剣士の剣のようなものなのですよ。切っても切れない、なくてはならない存在だ。しかし、マオーニ伯爵家は違う」
 
 サリーシャは努めてゆったりとブラウナー侯爵を見つめ返した。

「わたくしは、セシリオ様が望まれたのでここにいます。セシリオ様がわたくしを必要として下さる限り、お側にいるつもりです」
「老婆心から申し上げますがね、どうやらアハマス卿は若さゆえの恋の熱に浮かされて、冷静な判断が出来なくなっているようだ。直接言うと機嫌を損ねるので、わたしが代わりに道を正しておこうと思います。先代から付き合いのあったアハマスが没落するのをみすみす見殺しにすることは出来ませんから」

 ブラウナー侯爵は少し苛立ったように、眉間に皺を寄せる。持っていたフォークがカシャンと大きな音を立てた。

< 248 / 354 >

この作品をシェア

pagetop