辺境の獅子は瑠璃色のバラを溺愛する
「アハマス辺境伯のセシリオ=アハマスだ」
「アハマス辺境伯閣下……」
サリーシャは口の中でその名前を小さく復唱した。
アハマスはタイタリアの北の国境に位置する辺境の地であり、タイタリアの国防の要となる重要な地域だ。アハマス辺境伯は古くよりその地域全体を自治しており、実質的に国防軍を兼ねている。
サリーシャはその男──セシリオを見返した。
軍人を兼ねているのであれば、この逞しい体つきも納得出来る。しかし、アハマスの辺境伯がマオーニ伯爵家に一体何の用事があるのだろうか。マオーニ伯爵家の領地とアハマスは全く方向も違う。
更に言うならば、なぜ当主であるマオーニ伯爵ではなく、サリーシャが応対しているのか、その理由がわからなかった。
セシリオはそんなサリーシャの胸の内など露ほどにも知らぬ様子で、サリーシャの手を持ち上げて甲にキスをした。乾いてカサカサした感触が、肌に触れる。
不快感はなかった。サリーシャがぼんやりとこげ茶色の髪に覆われた頭頂部を眺めていると、セシリオが顔を上げ、ヘーゼル色の瞳がまっすぐにサリーシャを捕らえた。
その瞬間、サリーシャはコクンと小さく息をのんだ。
「アハマス辺境伯閣下……」
サリーシャは口の中でその名前を小さく復唱した。
アハマスはタイタリアの北の国境に位置する辺境の地であり、タイタリアの国防の要となる重要な地域だ。アハマス辺境伯は古くよりその地域全体を自治しており、実質的に国防軍を兼ねている。
サリーシャはその男──セシリオを見返した。
軍人を兼ねているのであれば、この逞しい体つきも納得出来る。しかし、アハマスの辺境伯がマオーニ伯爵家に一体何の用事があるのだろうか。マオーニ伯爵家の領地とアハマスは全く方向も違う。
更に言うならば、なぜ当主であるマオーニ伯爵ではなく、サリーシャが応対しているのか、その理由がわからなかった。
セシリオはそんなサリーシャの胸の内など露ほどにも知らぬ様子で、サリーシャの手を持ち上げて甲にキスをした。乾いてカサカサした感触が、肌に触れる。
不快感はなかった。サリーシャがぼんやりとこげ茶色の髪に覆われた頭頂部を眺めていると、セシリオが顔を上げ、ヘーゼル色の瞳がまっすぐにサリーシャを捕らえた。
その瞬間、サリーシャはコクンと小さく息をのんだ。