辺境の獅子は瑠璃色のバラを溺愛する

 セシリオの顔を見てハッとした表情を見せたその騎士は、近衛騎士らしく細身ながら締まった体躯の凛々しい男だった。黒い瞳を凝らすようにセシリオの胸の徽章を確認し、もう一度セシリオの顔を見つめると目を細める。

「これは、もしやアハマス閣下でいらっしゃいますか?」
「いかにも俺がアハマス領主のセシリオ=アハマスだ。王室からの使いと見たが、何か用か?」
「フィリップ殿下からの親書を届けに。殿下も追ってこちらに到着いたします」
「親書? 殿下が追って到着?」

 セシリオはすぐには状況が分からず、訝し気に眉をひそめた。
 近衛騎士は王室直属のエリート騎士団であり、その近衛騎士がわざわざ親書を届けに来るというのは異例なことだ。それだけでも訝しむには十分だが、それ以上にセシリオが訝しんだのは『フィリップ殿下が追って到着する』という部分だった。王族がこんな辺境の地に自ら足を踏み入れることなど、事前に計画された視察以外ではそうそうあることではない。

 セシリオは目の前の近衛騎士が懐から取り出して差し出した親書を受け取ると、宛先と差出人、そして、封蝋を確認した。宛先はセシリオ、差出人はフィリップ殿下、そして、封蝋には見慣れた王室の印が刻印されており、それは太陽の光の下で見ると黄色味を帯びてみえた。

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