辺境の獅子は瑠璃色のバラを溺愛する
 すぐにその親書をその場で開き、中身を確認した。そこには、フィリップ殿下が早ければ明朝、アハマス領入りすること、アハマス領主館に到着するまでブラウナー侯爵を帰してはならないこと、ピース・ポイントから戻ったら直ちに武器庫に今回購入した全ての武器を格納し、何人(なんびと)たりとも触らせてはならないことが書かれていた。恐らく、王都を出てアハマスに向かう途中でセシリオからピース・ポイントに行く旨の手紙を受け取り、その返事として書いたのだろう。

「一体、どういうことだ?」

 セシリオは親書を畳むと眉を寄せて独り言ちた。
 フィリップ殿下の婚約披露式典での襲撃事件の総指揮官をしている殿下本人の突然の来訪。ブラウナー侯爵を帰すなとの言及。そして武器庫への接近制限。それらのことから導き出される答えは、一つしかないように思えた。

「すぐに、モーリスにこれを届けてくれ」

 険しい表情を浮かべたセシリオはすぐに部下の騎士の一人を指名して、アハマスの領主館へ伝令のために戻らせることを決めた。モーリスであれば、セシリオに代わってあちらに気付かれないように上手く立ち回ってくれるだろう。

 セシリオはこのとき、サリーシャに危険が迫るなどとは、露にも思っていなかった。
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