辺境の獅子は瑠璃色のバラを溺愛する
つい先ほどフィリップ殿下と合流して領主館に戻ったセシリオは、まずはフィリップ殿下を客間へと案内した。そして、殿下へ出すお茶を使用人に用意させている間にサリーシャの顔を見ようと、二階の部屋へと向かうことにした。
抜けるような青空の爽やかな陽気は、そろそろ夏が近づいてきている証拠だろうか。今朝早くサリーシャの部屋を訪ねたとき、サリーシャはすやすやと気持ちよさそうに眠っていた。しかし、この時間であれば流石に起きているだろう。
自分が戻ったことを知ったとき、サリーシャはどのような反応を示すだろう。
あの瑠璃色の瞳を輝かせて、満面に笑みを浮かべるだろうか。
『閣下っ!』と叫んでこの胸に飛び込んでくるかもしれない。
優しく頬を撫でれば、白い肌はさくらんぼのように赤く色づくだろう。
そんなことを想像して表情を綻ばせていると、外から銃の発砲音が聞こえた。独特の、シュバーンという大きな音は、屋敷の中まで聞こえてくる。驚いた鳥達が一斉に飛び立つのが見えた。
──今日は、銃士隊が訓練しているんだな。
そんな呑気な考えは、様子を見に外から戻って来たノーラに会った瞬間に飛散した。