辺境の獅子は瑠璃色のバラを溺愛する
セシリオは地面にへたり込むサリーシャを抱きしめたまま、ブラウナー侯爵を睨みつけた。
「これはどういうことです。ブラウナー侯! 返答次第では、今この場であなたを叩き斬る」
それだけで人が殺せそうなほどに怒りに満ちた声。返答を聞く前に殴り殺したいところだが、相手は自分と同格の侯爵だ。問答無用でそんなことをすれば、セシリオ自身も殺人罪に問われるし、アハマスもただでは済まない。
まさかセシリオが現れるとは思っていなかったブラウナー侯爵は一瞬怯んだ顔をしたが、すぐに申し訳なさそうに眉尻を下げた。
「これはお早いお戻りで、アハマス卿。わたしはサリーシャ嬢に頼まれて、銃の使い方をお教えしていただけですよ。アハマス卿の声に驚いて手元が狂いました。いやいや、危なかった。サリーシャ嬢が傷ついていなくて本当によかった」
したり顔のこの男の言うことは、全くのでたらめだろう。これが数ヶ月前なら、セシリオはこの言葉を信じたかもしれない。だが、王室の中枢部と親書をやり取りしているうちに、到底そうは思えなくなった。
しかし、でたらめだと思っても証拠がない。サリーシャは恐怖の余りに言葉が出ないのか、震える手でなんとかセシリオの軍服を握ると子犬のように身を寄せてぴったりとくっついてくる。セシリオはぐっと眉を寄せてサリーシャを包み込むように回している腕に力を込めた。