辺境の獅子は瑠璃色のバラを溺愛する

「彼女に銃口を向けているように見えたが?」
「戯れ言を。見違えでしょう。わたしがなぜそのようなことを? 現に、サリーシャ嬢には当たっていない」

 ブラウナー侯爵は非常に心外だと言いたげに眉をひそめると、肩を竦めてみせた。セシリオはぎりっと奥歯を鳴らす。なにか証拠さえあれば、今すぐにこの場で殺してやるのに。

 そのとき、再び射撃演習場の出入り口が開く、バシンという音がした。

「ほう? これはまた、珍しいものを持っているな」

 突然聞こえた若い男の声に、ブラウナー侯爵がそちらに目を向ける。みるみるうちに顔が青ざめ、目は驚愕で零れ落ちんばかりに見開かれた。

 セシリオは、そこで自分が大切な人を放置していたことに気付いた。サリーシャのことで頭がいっぱいになり、すっかりと忘れていた。
 セシリオの胸に抱かれたままのサリーシャは、その声を聞くとピクリと肩を揺らし、首を伸ばして出入り口を見ようとした。そして、ひゅっと小さく息を飲む。

「なんで……、フィル……」

 ほとんど聞き取れないような掠れ声で、サリーシャがそう呟くのが聞こえた。
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