辺境の獅子は瑠璃色のバラを溺愛する

「なるほど。大したものだな。素晴らしい銃に関する知識だ」
「身に余る光栄にございます」

 ブラウナー侯爵は褒められて気を良くしたのか、満足げに微笑んで一礼をした。

「そんな素晴らしい知識を持つブラウナー卿に問う。ブラウナー領にあるクロール村出身、アドルフという男を知っているか?」
「? いえ、存じません。クロール村は我が領地ですが、村人の一人ひとりまで覚えておくことは流石に無理です」
「そうか? なんでも、狩りの名人で、その男にかかれば猪でも短刀で仕留められると、隣町まで評判になるほどの男だったらしいんだ。一度も聞いたことがないか?」

 フィリップ殿下が不思議そうに言うと、ブラウナー侯爵の顔が一瞬でこわばった。フィリップ殿下はゆっくりと話を続ける。

「その男がな、病気がちな妹の治療費に困っていたところ、半年ほど前に金貨五十枚という破格の報酬でどこかの金持ちに雇われたらしいのだ。おかげで妹は元気になったが、いつまで経っても本人は戻ってこないという。どこへ行ったと思う?」
「……わたしには分かりかねます」
「ほう? ……貴方なら知っていると思ったのだが、不思議なことだ」
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