辺境の獅子は瑠璃色のバラを溺愛する
ブラウナー侯爵の顔が歪む。
「そうでしたか? しかしながら、わたしはこの銃でないとどうも調子がでません。……新しい弾をとりに行ってもよろしいでしょうか?」
「なぜ新しい弾を用意する必要が? 貴方の仕入れたものであれば、どれも信頼性も調整具合も間違いないだろう? それとも、貴方の用意する武器は個々でそれほどまでに性能差がある扱いにくいものなのか? 俺は、今すぐに、ここでこれを撃って見せろと言ったんだ」
その声は、サリーシャの知る優しい友人の声とは似ても似つかぬほど冷徹な響きを帯びていた。一度も聞いたことのないような、冷たく、しかし命令に背くことを絶対に許さないかのような王者の声。
目の前の人が自分の知る友人とは違う人間に見えて、サリーシャの体は無意識にまた震えだした。サリーシャを包むセシリオの腕に力がこもる。
それでもピタリと足に根が張ったかのように動かないブラウナー侯爵を見つめ、フィリップ殿下はつまらなそうに片手を上げた。
「なんだ、やらぬのか。つまらぬな」
そして、上げていた右手の指をパチンと鳴らす。