辺境の獅子は瑠璃色のバラを溺愛する
 自慢の口ひげを揺らしながらそう言うマオーニ伯爵に、サリーシャはこくりと頷く。
 貴族の結婚など、殆どの場合が政略結婚だ。それでも、多くの夫婦は上手くやっていく。セシリオとは一度しか会っていないが、印象は決して悪くない。縁あって夫婦となるのだから、上手くやっていきたいと思った。

 マオーニ伯爵を始めとする屋敷の面々に最後の別れを告げると、サリーシャはアハマスまで唯一同行する侍女、ノーラとともに馬車に乗り込んだ。

 その豪華な馬車に揺られること数日。

 この日も馬車の中で揺られていたサリーシャは、窓の外を覗いた。外に見えるのは鬱蒼と茂る森林だ。何回窓を開けてもみえる景色は森林ばかり。もう何時間もこの光景が続いている。
 景色が移り変わるうちはそれを見ていると気分が高揚したが、同じ景色ばかり続くようになると、途端にサリーシャの頭には色々な疑問や不安が浮かんできた。

「ねえ、ノーラ。どうしてアハマス閣下は、わたくしを妻にと望んだのかしら?」

 サリーシャは窓から視線を室内に戻すと、ずっと不思議に思っていたことを同行したノーラに尋ねた。

「それはもちろん、サリーシャ様の美貌に見惚れ、望まれたのではないのでしょうか? サリーシャ様は『瑠璃色のバラ』と呼ばれるほどの美女でいらっしゃいますもの」

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