辺境の獅子は瑠璃色のバラを溺愛する
「……悪かった。弱ったな。せっかく、人が身を切る思いで言ったのに、きみという人は。やはり、俺にはとても手放せそうにない」
「手放さないで下さいませ!」
サリーシャはセシリオの上着をぎゅっと掴んだ。
「でも、これから先、一生だぞ? アハマスは辺境だから、王都のような娯楽はない。軍人ばかりの、むさ苦しい場所だ。それでもいいのか?」
「でも、閣下がいらっしゃいます」
「──そうか。俺を選んでくれるのか……」
唇を噛むとセシリオは再びサリーシャを抱きしめた。今度は優しく、宝物を胸に抱くように。軍服越しに規則正しい胸の音が聞こえ、サリーシャの中にホッとしたような安心感が広がってゆく。
「だって、わたくし、閣下とずっと一緒にいたいのです。閣下のことがとても好きなのです。一晩いらっしゃらないだけで寂しくて心細くて、……とてもふしだらな夢を見てしまうほどに──」
サリーシャは今朝のことを思い出して顔が上気してくるのを感じた。サリーシャは一晩セシリオと会わなかっただけで、セシリオにキスされて愛を囁かれる、自らの願望を具現化したようなリアリティーたっぷりの夢を見たのだ。