辺境の獅子は瑠璃色のバラを溺愛する

 ジョルジュは独り言ちるとうんうんと首を縦に振り、勝手に納得している。サリーシャとセシリオは顔を見合わせて、苦笑した。

「旦那様は社交シーズンも滅多にこちらにお越しにはなりませんからね。それが今年はこれで二回目です。奥様がいらしたからですね。喜ばしい限りです」

 にこにことしながらそういうジョルジュの話を聞きながら、サリーシャはもう一度ちらりとセシリオを見上げた。セシリオは苦虫を噛み潰したような顔をしている。

 フィリップ殿下の婚約者を目指すように言われていたサリーシャは、王宮で開催される舞踏会にはほぼ必ず参加していた。思い返してみると、確かに、一度もセシリオと会った記憶はなかった。
 これだけ体格がよく、顔に傷があり髪も短髪という目立つ風貌だ。舞踏会で会っていれば忘れるはずはない。少なくともサリーシャが十六歳で社交会デビューしてからは、セシリオは一度も社交パーティーに参加していないはずだ。王都に来るのが今年二回目ということは、一回目はサリーシャに婚姻の申し込みをしに来たときのことだろう。

「王都は遠いだろ? それに、パートナーを探すのが面倒だったから」
「確かに遠いですわ。でも、次回からはわたくしがいるからパートナー役を探す手間は省けますわね?」
「それもそうだな。──ダンスの練習をしないと……」

 そう言ってセシリオはしかめっ面をした。どうやら、ダンスがあまり得意ではないようだ。セシリオの意外な弱点がわかり、サリーシャはふふっと笑みを零した。

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