辺境の獅子は瑠璃色のバラを溺愛する

 いつの間にか頭を半分以上馬車から出していた。腹部に逞しい腕が回され、ぐいっと馬車の中に引き戻される。ぱっと振り向くと、思った以上に近い距離にセシリオの顔があり、カーっと頬に熱が集まるのを感じた。
 
「懐かしいのは分かるが、危ないだろう。何かにぶつかったらどうする?」
「ごめんなさい。つい」

 サリーシャは叱られた気恥ずかしさと、近すぎる距離にどぎまぎして俯いた。セシリオはそれを、サリーシャが落ち込んだのだと勘違いしたようで、子供にするように頭を撫でてきた。大きな手が、何回か頭頂部を往復してから、絡めるように指で髪をすく。

「……必要な用事が終わったら、王都を見て回ろうか? アハマスに無いものも、ここには色々とあるだろう。欲しいものがあれば、きみに贈ろう」
「閣下と一緒に? 王都を?」
「ああ。ただ、俺よりきみの方が王都には詳しいだろう。エスコート役には物足りないかもしれない」
「全然構いませんわ! だって、閣下はアハマスを案内して下さったではありませんか。今度はわたくしの番ですわね。そうだわ、わたくし美味しいケーキ屋さんを知っておりますのよ。宝石みたいに可愛らしいスイーツが、それはそれは沢山ありますの」
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