辺境の獅子は瑠璃色のバラを溺愛する
「本当に? 殿下はそんなこと仰っていた?」
「ええ。わたくしといらっしゃるときは、殿下は大抵エレナ様のことを話して、無自覚に惚気ておりました。よっぽどエレナ様のことがお好きなのだと思いますわ」
「まあっ!」
ますます赤くなるエレナを見て、サリーシャはほんわかとした気分になり、目尻を下げた。
思い返せば、エレナと出会った日から、フィリップ殿下の会話の内容は明らかにエレナの話題が増えていた。時を追うごとにそれは増え、最後は半分以上、エレナの話題だった。きっと、他の人間に話すと王太子妃候補の件で色々と問題が発生する──つまり、子爵家であるエレナに身を引けと迫る高位貴族が多数現れる可能性があるから、ここぞとばかりにサリーシャに話していたのだろう。
サリーシャは改めてエレナを見つめた。小さな体に大きな茶色い瞳と艶やかな茶色の髪は、森で見かけるリスのようで本当に可愛らしい。友人が夢中になるのも頷ける。
「殿下ったら、そんなことわたくしには一言も言ってくれないわ。サリーシャ様がいらっしゃらないと、格好つけたがりなのですわ。三人でお会いするときは、お菓子の好き嫌いをしたりだとか、虫に驚いて大騒ぎしたりしていたでしょう? 今はいつも澄まして、大人ぶって、格好つけているのです。確かに素敵なのだけど、つまらないわ」
エレナは頬をぷくりと膨らませた。サリーシャはそれを聞いて、昔のことを思い出してふふっと笑みを零した。