辺境の獅子は瑠璃色のバラを溺愛する
フィリップ殿下はあまり砂糖漬け菓子が好きでなかった。お菓子の好き嫌いというのは、三人でお茶会をしているときに、いつもサリーシャに『これ、好きだろう?』となかば無理やり、出された砂糖漬け菓子を押し付けてきたことだろう。エレナと二人だと、頑張って食べているようだ。
虫に驚いて大騒ぎというのは、エレナが庭園で巨大なミミズを見つけて目を輝かせてフィリップ殿下に見せたときのことだ。
田舎令嬢のエレナにとって、巨大ミミズは土地を肥沃にする神様的存在だった。それを見つけたエレナは嬉しくなったようで、素手で捕まえてフィリップ殿下に見せたのだ。その時のフィリップ殿下の驚きようと言ったら、長い付き合いのサリーシャも見たことがないほど凄まじいものだった。ちなみに、サリーシャは元は田舎の農家育ちなのでミミズはペットのようなものだ。驚くわけがない。
「きっと、エレナ様の前ではいいところを見せていたいのですわ」
「でも、猫を被っているのよ? つまらないわ」
口を尖らせるエレナを見て、サリーシャは苦笑した。
フィリップ殿下が言っていた『エレナがサリーシャに大層会いたがっている』というのは、半分は本当にサリーシャに会いたい気持ち、もう半分はいいところを見せようとして素を晒さないフィリップ殿下への不満の表れなのかもしれない。しかし、友人が愛する婚約者を前に格好つけたい気持ちも分からなくはない。
要するに、お互いがお互いを大好きで、とても仲が良いようだ。