辺境の獅子は瑠璃色のバラを溺愛する
セシリオは怪訝な表情で聞き返した。
セシリオはサリーシャから、褒賞のことは何も聞いていなかった。先ほどサリーシャは一人でエレナにどこかへ連れていかれたのだが、エレナは『褒賞にサリーシャ様とお揃いのドレスを作ろうと思いまして』と笑顔で言っていた。
「ドレスは表向きだ。サリーシャは俺がアハマスを去る日になんと言ったと思う? 『閣下とアハマスの兵士が二度と戦争に行かずに済むように、ダカール国との友好に尽力することをお願いします。望むことはそれだけです』と。流石にそれは褒賞としては与えられぬ。だが、俺の目が黒いうちは必ず守ると約束する」
セシリオは思ってもみなかった話に、目をみはった。そして、フィリップ殿下に頭を垂れた。
「……そうですか。とても有難いお話です」
「よい。上に立つ人間が国の為に力を尽くすのは当然のことだ。俺やエレナとしても、定期的にアハマス卿とサリーシャに会えるのは嬉しいことだしな。──アハマス卿。また昔のように、たまに剣の稽古をつけてくれるか?」
「勿論です」
フィリップ殿下はその返事を聞くと、朗らかに微笑んだ。そして、壁際の機械時計を見る。
「そろそろ女性陣のドレスの生地選びも終わったことだろう。陛下の元へ謁見へ行こう」