辺境の獅子は瑠璃色のバラを溺愛する
 窓の外は青い空が広がり、遥か遠くまで見渡せるほどに爽やかに晴れていた。豪華な馬車とはいえ、雨が降って足下が悪くなると揺れて乗り心地が悪い。サリーシャのようなか弱い女性ではさぞかし辛かろう。セシリオは天に向かってこの快晴を感謝した。

「なに、大丈夫さ。俺のアドバイスどおり、手紙もつけたんだろ?」

 じっと外を眺めていると、ポンと肩を叩かれた。目を向ければ、椅子に座って書類を確認していたはずのモーリスもセシリオの隣に立ち、窓の外を眺めていた。モーリスは、セシリオが花嫁がここに来ないことを心配していると思ったのだろう。

「ああ。つけた」

 セシリオは小さく返事する。モーリスは「じゃあ、大丈夫だ」と言って片側だけ器用に口の端を持ち上げると、今度は背中を力一杯バシンと叩いた。

 アハマス辺境伯であるセシリオは、とても有能な男だ。自分に厳しく、仕事はまじめ。そして勇猛果敢で部下たちの信頼も厚い。しかし、色恋沙汰には少々不器用だ。
 辺境の地で男ばかりの軍人たちに囲まれて生きていたので仕方ないといえば仕方ないのだが、これだけ有能な男、しかも高位の爵位持ちがこの歳まで独身で残っているのも珍しい。

 今回も仕事の都合で未来の花嫁を迎えに行けないというのに、断りの手紙一つ付けずに馬車を送り出そうとして、慌てて周囲に止められていた。そして、最終的に懇切丁寧(こんせつていねい)に手紙の指導をしたのはモーリスだった。

< 37 / 354 >

この作品をシェア

pagetop