辺境の獅子は瑠璃色のバラを溺愛する

「あの……、アハマス閣下は、大層お怒りになられたでしょうね」

 サリーシャはおずおずとクラーラを上目遣いに見上げた。クラーラはキョトンとした表情をして、片手で口元を覆うとおほほっと笑った。

「いいえ。怒るというよりは、がっかりしておられました。疲れて寝ていらっしゃるだけだと何度もお伝えしたのですが、自分が何か不手際をしたせいで嫌われてサリーシャ様がいらっしゃらないのかと、しきりに気にしておられてて」
「わたくしが閣下を嫌って?」
「そのくせ、起こしてくるとお伝えしたら、『疲れてるなら可哀想だから寝かせておいてやれ』って仰るんですよ。おかしいでしょう?」

 サリーシャはどんな反応を返せばよいのかがわからず、クスクスと笑うクラーラを見つめ無言で小首をかしげた。セシリオは、まさか朝までサリーシャがぐっすり寝てしまうとは思っていなかったのだろう。むしろ、叩き起こしてくれた方がよかったかもしれない。

「でも、今朝もサリーシャ様がいらっしゃらなかったら本当に落ち込んでしまいますので、是非朝食にはお越しください」
「……ええ。わかったわ」
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