辺境の獅子は瑠璃色のバラを溺愛する
 口元を綻ばせるノーラを見て、サリーシャも微笑んだ。
 ノーラは早速書架の隙間に立ち、本の物色を始める。すぐに何冊かを抜き取り、胸に抱えた。そして、さらに本を選ぼうと本棚を眺めていたのだか、ふと一冊の本の背表紙に目を留めると、懐かしそうに目を細めた。

「お嬢様。これ、マオーニ伯爵邸にも置いてあったものですわ。お嬢様が大好きで、何度も読んでいた──」
「本当? どれ??」

 サリーシャはノーラの声に反応してそこに駆け寄った。横から並んでいる本の背表紙を覗きこむ。

「まあ! 本当だわ。わたし、これ好きだわ。確か、森の精霊と騎士様の恋物語ね?」

 サリーシャは表情を明るくしてその本を本棚から抜き取った。『森の精霊と王国の騎士』と書かれたそれは、確かにサリーシャの知る本だ。確か、サリーシャがマオーニ伯爵に引き取られて一年ほどした頃に発刊され、大人気となった。サリーシャが必死で文字を覚えた理由の一つは、この本が読みたかったからでもある。

「最近の本もあるのですね」
「そういえば、そうね。これは、発刊が六年前?」

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