辺境の獅子は瑠璃色のバラを溺愛する
 それはサリーシャにとって、嘘偽りのない言葉だ。

──本当に、偽りの仮面を被り続けるわたしにはもったいないような、素敵な人だわ。
 
 サリーシャは思った。なんの足枷もなくあの人の胸に飛び込んだら、どんなに幸せだろうかと。きっと、あの大きな体で自分を受け止めてくれる気がした。
 早く自分の秘密を彼に言わなければと思うのに、時間が経てば経つほど、言い出すタイミングを失ってゆく。
 
 クラーラは少し化粧が崩れた目元をハンカチで拭きつつ、微笑んだ。

「それを分かってくださる方は、なかなかいないものなのです。さあ、そろそろ参りましょう。あまり遅くなると、旦那様が落ち込んでしまわれます」
「まあ、それは大変だわ」

 そんな台詞が、冗談に思えないから、本当に困ってしまう。
 サリーシャは美しい金髪をクルリと翻し、足早に玄関ホールへと向かった。

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