辺境の獅子は瑠璃色のバラを溺愛する
 小麦屋の店主は驚いたように目を見開き、まじまじとサリーシャを見つめる。

「ここらじゃ見かけないすごい美人だな。瞳の色が珍しい色だ。青……とはちょっと違うな」
「ああ、綺麗な瞳だろう? 今日初めて街に出たんだ」
「──領主様、そりゃ、デートだな? デート中に仕事しちゃダメだろう? 愛想つかされるぞ。それなら、そうだな……。おすすめはあっちの公園だ」

 眉をひそめた小麦屋店主が通りの向こうを指さす。デートのおすすめ場所を紹介され、セシリオとサリーシャはこの日だけで四件目となる小麦屋を後にしたのだった。

 沈黙したまま横を歩くセシリオが、少しだけ気まずそうにサリーシャを見下ろす。

「……ドレスでも見に行くか?」
「いえ。沢山持っていますわ」

 サリーシャは首を振った。ドレスなら、マオーニ伯爵家で用意されたものをたくさん持ってきたので不自由していない。それに、アハマスでも事前に普段使い用を数着用意してくれていた。

「では、宝石でも」
「宝石も持参したものがありますから、大丈夫ですわ」
「……そう」

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