辺境の獅子は瑠璃色のバラを溺愛する

「ああ、済まない。今、これしか持っていなくてな。きちんと洗うから」

 セシリオがサリーシャの服が汚れないようにと敷いてくれたハンカチには、シルクハットと『C』のアルファベットが刺しゅうされていた。初めて会った日、サリーシャが持っていたものだ。チェスティ伯爵の『C』を刺しゅうしたものだったのだが、口の回る義父のマオーニ伯爵はセシリオのためにサリーシャが刺したものだとうそぶき、そのままセシリオの手に渡った。

 ──こんなところにも、わたしは嘘をついているのね。

 サリーシャはそのハンカチを無言でしばらく見つめてから、おずおずとそのハンカチの上に腰を下ろした。セシリオは汚れることなど気にならない様子で、そのままゴロンと芝生に横になる。心地よい風が吹き、陽の光が温かく辺りを照らしていた。
 セシリオは頭の横にひょろりと生えたシロツメクサを一輪手に取ると、それを頭の上に上げてぼんやりと眺めていた。

「今日は、花冠は作らないのか?」
「花冠?」
「きみと初めて会った時に、王宮の庭園でこれで作った花冠を貰った。ここの平和を守る俺に敬意を表して、と言って」

 セシリオはシロツメクサを見つめたまま表情を綻ばせると、ゆっくりとサリーシャに視線を移した。それを聞いた瞬間、すぐに一つの遠い記憶とリンクしてサリーシャは目を見開いた。

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