辺境の獅子は瑠璃色のバラを溺愛する
「……閣下は……もしかして、あの時のお兄さん?」
「ああ、そうだよ。きみは小さかったけど、おぼえているんだな」
「だって……、あそこに来た人はフィル以外では後にも先にもあのお兄さんしかいなかったわ」
「そうか。実は、フィルにあの場所を教えたのは俺だ」

 セシリオはフッと笑った。サリーシャはぼんやりとセシリオを見つめる。
 もうずいぶんと昔のことで、記憶が曖昧だ。けれど、一度だけフィリップ殿下以外の男性が待ち合わせ場所に訪れてきて、花冠をプレゼントしたのは覚えている。あれは確か……

「わたくし、閣下の気持ちも知らずに勝手なことを申し上げました」
「なぜそう思う?」
「だって……」

 サリーシャは顔を俯かせた。
 あの日はアハマスで起きた戦争の祝勝記念式典だった。後から聞いた話で、戦況はとても厳しく激しいものだったと知った。
 あの時、あのお兄さんは「沢山やっつけた」と言って自嘲気味に笑った。それは恐らく、そういうことなのだろう。それに、クラーラから先代のアハマス辺境伯もあの戦争の傷が元で亡くなったと聞いた。つまり、セシリオはあの当時、父親も失ったばかりだったのだ。

< 87 / 354 >

この作品をシェア

pagetop