辺境の獅子は瑠璃色のバラを溺愛する
 言葉に詰まるサリーシャの頭に大きな手が伸びてきて、ポンポンと撫でた。

「あの日、自分が何もかも嫌に感じていた俺は小さなレディの言葉に心底救われたんだ。ありがとう」

 こちらを見上げるヘーゼル色の瞳が優しく細まる。

「違う」とサリーシャは思った。救われたのはサリーシャの方だ。当時は国境付近で戦火を鎮圧し、文字通り物理的に守られた。今は老人伯爵に売られそうになっていたところを、間一髪で救われた。そして、サリーシャに、このようによくしてくれる。

「救って下さるのは、いつだって閣下ですわ」

 セシリオはゆったりと上半身を起こすと、少しだけ首をかしげた。

「いや、きみだ」

 ゆっくりと大きな手がサリーシャの顔に近づく。マメだらけの手は優しく頬を撫で、髪をすいた。

「俺はきみに救われた。俺がそう思っているのだから、間違いなくそうだ」
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