辺境の獅子は瑠璃色のバラを溺愛する
サリーシャはつんと澄ましてピシャリと断った。
「きみは妙なところで頑固だな」
少し呆れたような声で紡がれた言葉は決して怒っている様子はなく、むしろ楽しげな色を含んでいた。ヘーゼル色の瞳は面白いものでも見つけたかのように、サリーシャを見つめている。
「それで、いったい俺に何を刺繍してくれるんだ?」
「秘密ですわ。わたくしが閣下をイメージして、考えます」
「それは、楽しみなような、怖いような……」
セシリオは少し眉間に皺を寄せる。
サリーシャはその様子をみてフフっと口元を綻ばせた。
裁縫用品店を出ると、セシリオは右手でサリーシャを制すると、先に一歩出て左右を見渡した。一台の馬車が目の前を通り過ぎると、すぐにとおせんぼするように伸ばしていた腕を下げた。往来する馬車や馬など、危険がないかを先に確認したのだろう。
「菓子屋は、焼き菓子でいいか?」
振り向いてサリーシャを見下ろしたセシリオは、どこに行くかを思案するように顎に手を当てた。