辺境の獅子は瑠璃色のバラを溺愛する
「はい。どこかいいところをご存知ですか?」
「俺は直接買ったことは無いのだが、モーリスからよく聞く菓子屋があってな。奥方が好きで時々買って帰っているようだ」
「モーリス? 確か、閣下の右腕でしたかしら? もしかして、クラーラの息子さんかしら?」
「そうだ。よく知っているな?」
意外そうな顔をするセシリオに、サリーシャはにんまりと笑ってみせる。
「クラーラから教えて貰いましたわ」
「そうか。今度、紹介しよう。そう言えば、あいつからもきみを紹介されてないとぼやかれたな」
セシリオは小さく笑うと、右手をサリーシャに差し出した。サリーシャはそこに自分の手を重ねる。相変わらず握り込むように包む力加減はエスコートと言うには力が強すぎる。けれど、サリーシャはその力強さが心地よく感じて、無言で握り返した。
セシリオに連れられて訪れた菓子屋は、裁縫用品店から歩いて五分ほどの場所にあった。店内を覗くと、ガラスケースの中には色々な焼き菓子がならんでいる。水色に塗られた入り口のドアを開けると、ふんわりと甘い香りが鼻腔をくすぐった。
「好きなものを選んでも?」
「もちろん」