辺境の獅子は瑠璃色のバラを溺愛する
サリーシャは目を輝かせてガラスケースを覗き込んだ。王都の人気パティスリーのようなお洒落さはないが、どれもとても美味しそうだ。いくつかのフィナンシェを選んでいると、横で見ていたセシリオがとても大きな焼き菓子の詰め合わせに手を伸ばした。
「閣下もお土産ですか?」
「ああ。このあと一ヵ所だけ、寄り道しても?」
「もちろんです」
そうして最後に連れられて行った場所は、やや郊外に位置していた。辻馬車に揺られること十五分、先に降りたセシリオに手を差し出されて踏み出した地面は、中心部のような石畳ではなく、土に覆われていた。
「ここは?」
サリーシャはあたりを見渡してから、目の前の建物を眺めた。白い壁にグレーの屋根の木造二階建てのそれは、集合住宅だろうか。こちらから見える壁沿いには等間隔で窓が並んでいる。建物の前の庭には洗濯物が干されており、ヒラヒラと風に揺れていた。