辺境の獅子は瑠璃色のバラを溺愛する

「ここは支援施設だ。アハマスでは数年前、戦争があったのは知っているな? あの時、多くの兵士が亡くなった。それと同時に多くの女子供が夫や父親の庇護を失った。ここはそういう者達が暮らしていくための支援施設になっている」
「修道院ですか?」
「修道院とは違う。あれは神の花嫁になる場所だが、ここは女性や子供が独り立ちして生きていくための支援をしている」

 そう説明しながら、セシリオはその建物の入口まで行くと呼び鈴を鳴らした。中からでてきた年配の女性は、セシリオの姿を見て頬を綻ばせた。

「これはアハマス閣下。ようこそお越し下さいました。どうぞ上がって下さい」
「いや、ちょっと立ち寄っただけだ。不便はないか?」
「はい。お陰さまで、みな元気にしております。先月、ルクエが材木屋に弟子入りして出ていきました」
「それはよかった」

 サリーシャは二人の様子を眺め、女性はこの施設の管理人のような役割の人で、セシリオはここの入居者達の近況を気にしているのだと理解した。ルクエというのは、恐らく孤児にでもなってここに入居していた子供の名だろう。セシリオは少し立ち話をすると、先ほど購入した焼き菓子をその女性に渡していた。ここの入居者の分を買ったのであれば、あの量も頷ける。
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