政略懐妊~赤ちゃんを宿す、エリート御曹司の甘く淫らな愛し方~
 誕生日にはこうして手料理を振る舞い、私の「おいしい」って言葉に嬉しそうに目を細める。

 これから一緒に生活する中でもっと私の知らない彼の一面を見たら、これ以上に好きにならない自信なんてないよ。

 ますますこの気持ちが大きくなることへの恐怖心が大きくなるばかり。

「千波?」

 私の手が止まったままなのに気づいた航君に名前を呼ばれ、慌てて笑顔を取り繕った。

 航君に私の気持ちに気づかれたらだめだ。どう思われるかわからないからこそ、絶対にバレたくない。

 優しくしてくれるのは、私が彼の子供を産めば一族に繁栄をもたらすからであって、なんの意味もない。

 結婚生活をともにする以上、仲が悪いよりは良いほうがいいと思っての行動で、それに愛情は含まれていない可能性がある。

自分に恋心を抱いていると知ったら、面倒に思って私を遠ざけるかもしれないんだ。そうなった時につらい思いをしたくない。

 私たちの間にあるのは契約のみ。そのことを常に忘れずにいよう。

「パンもいただきます」

「あぁ、食べてくれ」

 まだ温かいパンもちぎって口に運べば、バターの優しい甘さが口いっぱいに広がっておいしい。
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