政略懐妊~赤ちゃんを宿す、エリート御曹司の甘く淫らな愛し方~
「もしもし」

『ごめんね、千波ちゃん朝早くに。だけどすぐに伝えたくて……!』

 電話に出るとすぐに伯母の焦った声が耳に届いた。

「瑠璃になにかあったんですか?」

 よりいっそう緊張が増す私に、伯母は震える声で話し始めた。

『今さっき、ドナーが見つかったって連絡を受けて、これから瑠璃ちゃんの心臓移植手術が始まるの』

「……本当、ですか?」

『えぇ! 瑠璃ちゃんは一足先に手術室に向かって、今は心臓が到着するのを待っているところなのよ。……よかったわね、千波ちゃん。これでもう瑠璃ちゃんは大丈夫よ』

 力強い声で言われ、出発前に泣いていた瑠璃の顔が脳裏に浮かんだ。

 ずっと病気と闘ってきて、つらい思いをしてきた瑠璃。それなのに私たち家族の前ではいつも笑顔で気丈に振る舞っていた。

 瑠璃のためならなんでもしたいと思っていても、私にできることなんてなにもなくて、何度悔やんだことか……。

 ポロポロと涙が零れ落ちた。

『また手術が終わったら連絡をするわ』

「はい、よろしくお願いします」

 通話を切ったスマホを両手でギュッと握りしめた。

 よかった、本当によかった……! これで瑠璃は元気になるんだ。当たり前の生活を送ることができるんだよね。

 安心したらますます涙が止まらなくなる。
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