政略懐妊~赤ちゃんを宿す、エリート御曹司の甘く淫らな愛し方~
「きっともうあなたに会うことはないでしょうね。離婚後は航さんのためにも、私たちの前に二度と現れないで」

 最後に吐き捨てるように言って去っていく神屋敷さんに、私はなにも言えずに見送ることしかできなかった。

 航君を想う気持ちだけは負けない自信がある。……でも彼のご両親に、そこまで嫌われていると知ったら自信を失くしてしまった。努力だけで願いは叶うものだろうか。

 あれほど幸せな気持ちでいっぱいだったのに、一気に不安が押し寄せてくる。

 賑やかなフードコートに目を向ければ、みんな家族や恋人と楽しそうに過ごしていて、羨ましくなる。

 呆然と眺めていると背後から腕を掴まれ、肩が飛び跳ねた。

 私の隣に腰を下ろした航君は息が上がっていて、急いで戻ってきてくれたのが見てわかる。

「ひとりにして悪かった。大丈夫だったか? 彼女は?」

 姿が見えない神屋敷さんを探してか、彼は周囲を見回した。

「神屋敷さんなら、あの、急用ができたようでさっき帰りました」

「急用、ね」

 それらしい理由を並べても航君には通用しないのか、疑わしい目を向けられてしまう。

「なにか言われなかったか?」

 すぐにさっき神屋敷さんに言われた言葉が脳裏に浮かんだものの、平静を装う。

「はい、話す暇もなく帰られてしまったので」

 知っているかわからないけど、もし知らなかったのなら話したくない。彼のご両親が神屋敷さんとの結婚を進めているという事実を。

 自然と手に力が入り、拳をギュッと握りしめた。
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