政略懐妊~赤ちゃんを宿す、エリート御曹司の甘く淫らな愛し方~
 疑問ばかりの提案に、それも自分の人生がかかったことだ。そう簡単に答えなどでるはずがない。

「あの、まずはお互いの自己紹介からが先ではないでしょうか?」

 このままでは彼のペースに乱されるばかりだ。ちゃんと順を追って話を聞きたい。

 恐る恐る当たり前のことを言ったら、庵野さんは目を閉じて小さなため息を漏らしたものだから、ドキッとなる。

 もしかして私、庵野さんの機嫌を損なってしまっただろうか。伯父さんの仕事に支障をきたすことになりかねないことをした? いや、でも私は間違ったことを言っていない。

 私と彼は初対面だし、今日はお見合いなんでしょ? だったらまずは自己紹介をするべきだ。

 そう自分に言い聞かせて毅然と振舞う。すると彼は再び目を開けて真っ直ぐに私を見つめた。

「失礼した。庵野航という」

「あ……いいえ。えっと、来栖千波です」

 怒っているわけではないんだよね? でも庵野さんの表情は硬くて機嫌を損ねてしまったという思いが拭い切れない。

 彼がなにを考えているのか、わからないからこそ余計かも。
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