政略懐妊~赤ちゃんを宿す、エリート御曹司の甘く淫らな愛し方~
 不思議に思って声をかけると瑠璃は神妙な面持ちで私を見つめた。

「おねえちゃんが眠っている間に、警察が来たの。……お義兄さんとお姉ちゃんが回復したら、事情を聞きたいって言ってた」

「……そっか」

 警察が私と航君に聞きたいことは、神屋敷さんのことだよね。

「本当、お姉ちゃんとお義兄さんが無事でよかった。私、もう家族の誰かを失う悲しみを味わいたくないもの。だからお願い、お姉ちゃんはいつまでも元気でいてね」

 真剣な瞳で訴える瑠璃の手は、小刻みに震えていた。

「もちろんだよ」

 母を亡くした時に感じた悲しい気持ちを、二度も瑠璃にさせたくない。

「約束だからね?」

「うん」

 いつものように指切りを交わすと、やっと瑠璃は笑顔を見せてくれた。そしてナースコールを押して私が目覚めたことを看護師に伝える瑠璃の横で、私は複雑な思いになる。

 旅館が倒産し、父が蒸発した理由はまだ瑠璃には言わないほうがいいよね。航君が刺されて私が倒れただけでこんなにも動揺させちゃったんだもの、瑠璃の身体になにかあったら大変だ。

 航君にも相談しながら、時期がきたら真実を話そう。
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