政略懐妊~赤ちゃんを宿す、エリート御曹司の甘く淫らな愛し方~
 次の日。検査を終えてからやっと航君に面会することができた。瑠璃の乗る車椅子を押しながら彼の病室に向かう。

 昨夜はずっと最後に見た航君の姿が目に焼き付いて、なかなか眠ることができなかった。瑠璃から大丈夫だって聞いているけど、あんなに血が出ていたんだもの。この目で元気な航君の姿を見るまでは安心できない。

 緊張しながらドアを数回ノックするとすぐに「はい、どうぞ」という彼の声が聞こえてきた。

 ゆっくりとドアを開けた先にはベッドの上ながら座る航君がいて、私を見て安堵の笑みを浮かべた。

「千波」

「航君……!」

 元気そうな航君の姿に安心したから、涙が込み上がる。

「千波とお腹の中の赤ちゃんが無事で本当によかったよ」

「それは私のセリフです。……航君になにかあったら私……っ」

 想像しただけで怖くなり、ぽろっと涙が零れた。それを拭いながら病室に入り、瑠璃とともに彼の元へ向かう。

「瑠璃ちゃんにも心配をかけたね」

「本当ですよ。お姉ちゃんにも言いましたけど、本気で心臓が止まるかと思いました」

 おどけて言う瑠璃に航君は笑った。そして涙を拭う私を見つめる。

「千波にも心配かけてごめん」

「もう二度とあんな無茶はしないでくださいね」

 守ってもらえたって航君がいなくなったら意味がない。それをわかってほしい。

「俺も千波の泣く姿を見るのはつらいから肝に銘じるよ」

「絶対ですよ?」

「あぁ」

 そんなやり取りをしていると、瑠璃はわざとらしく「あ!」と声を上げた。
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