政略懐妊~赤ちゃんを宿す、エリート御曹司の甘く淫らな愛し方~
 利害が一致しただけの結婚なのに私を気遣い、伯父と伯母にもよくしてくれる庵野さんとなら、結婚してからいい関係が築けていけるのではないかと密かに期待していたりする。

「もう、あなたもなにか言ったらどうなの? 千波ちゃんが結婚するのよ?」

「わかってる」

 ずっと沈黙を貫いてきた伯父は、真剣な表情で庵野さんを見据えた。

「妹が亡くなり、その旦那も行方知らずの今、私たちは千波の親だと自負しております。そのうえで言わせてください」

 そう前置きした伯父に、庵野さんは「はい」と深く頷いた。

「ご存じのように千波はこれまで大きな苦労をしてきました。そんな千波たちに私たちは不甲斐なく、大きな力になれることができずにいたことをずっと悔やんでいたんです。ですが、そんな時にあなたが現れた。……千波の父親が残した借金だけではなく、瑠璃に移植の機会をいただけたことに、深く感謝いたします」

 言葉通りにテーブルに額が付きそうなほど深く頭を下げた伯父に、庵野さんは困惑した声で「頭を上げてください」と言った。

 しかし伯父は顔を上げることなく続ける。

「私たちではどちらも解決してあげられない問題でした。本当にどれだけ感謝をしたらいいか……。このご恩は一生忘れません。ありがとうございました」

 何度も感謝の言葉を口にした後、伯父はゆっくりと顔を上げた。
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