政略懐妊~赤ちゃんを宿す、エリート御曹司の甘く淫らな愛し方~
「そうですか。瑠璃のことまで考えてくださり、本当にありがとうございます。しかし、その……お立場的に大丈夫ですか? 瑠璃のために披露宴を延期しても」

 伯父も同じことを思ったようで、聞きにくそうに窺う。私も心配で庵野さんを見つめる。

「彼女の愛する家族に祝っていただけない披露宴など、する意味がありません。瑠璃さんにも彼女の幸せな姿を見ていただきたいんです。それはもちろんおふたりにもです」

「庵野さん……」

 彼の言葉に伯父の目は赤く染まっていく。

「本当に千波ちゃん、いい人と出会えてよかったわね。きっと天国にいるお母さんも泣いて喜んでいるはずよ」

 伯母はボロボロと涙を零して、何度も「おめでとう」「よかったね」と言う。

 これが普通の結婚だったなら、どれだけ私は幸せな気持ちで満たされただろう。偶然に庵野さんと出会い、お互いを好きになって交際期間を経てプロポーズされる。そのうえで今、私の家族に挨拶に来てくれていたら、私も伯母以上に泣いてしまっていたかもしれない。

 そんなことを考えてしまうのは、私の中で庵野さんに対する気持ちが少しずつ変化しているからだと思う。

互いの望みを叶えるための結婚だとしても、好きでもない私の家族にここまで気遣ってくれたら、誰だって好感を抱くはず。
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