政略懐妊~赤ちゃんを宿す、エリート御曹司の甘く淫らな愛し方~
「あの、私はクッキーを持っていこうと思っているのですが、大丈夫でしょうか?」

「べつになにもいらないぞ?」

「いいえ、そういうわけにはいきません」

 庵野さんが持ってきて、私が持っていかないわけにはいかないじゃない。

「庵野さんのようにあそこまで完璧に振る舞える自信はありませんが、少しでも庵野さんのご両親に好印象を持っていただけるように精いっぱい努めます」

 幼い頃から私と結婚するように言っていたくらいだもの、反対はされないだろうけど、私もしっかりと務めは果たしたい。

 ちょうどアパート前に着き、彼は路肩に車を駐車した。

「じゃあまずは、その呼び方を変えよう」

「呼び方ですか?」

「そう」

 車のエンジンを切って庵野さんは、ゆっくりと私に目を向けた。

「もっと早くに言えばよかったな。今日、ふたりに変に思われずよかった。結婚するんだから、お互い下の名前で呼び合おう。俺は千波と呼ぶから、千波も航と呼べ」

 呼び捨てだなんて、絶対に無理。

「無理です、呼べません」

「じゃあ千波はいつまでも俺のことを〝庵野さん〟って呼び続けるつもり?」

「それはっ……!」
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