無彩色なキミに恋をして。
いつもの生活から
何か少しずつ環境が変わり始めた――――
出勤時間に家を出ようとすると見慣れないセダンの車が家の前に停まっていて、運転席から降りてきたのは…鮎沢芹斗さん。
「おはようございます、緋奈星さん」
グレーのスーツに明るい茶髪で爽やかな笑顔を向ける彼が、なぜ自宅に?
「どう…したんですか?」
「もちろん、お迎えですよ」
「そんな事して頂かなくて結構ですけど…」
事もあろうに送迎なんて
”当たり前”みたいに言われたけれど誰も頼んでないし、婚約を受け入れたわけじゃないんだから関わらないでよ。
って…言いたいけど
事実を知らないから何も言えない自分が情けない。
「ありがとう、芹斗くん。
緋奈星を頼みます」
「えッ、お父さん!?」
示し合わせていたのか隣で父は彼に一礼し
わたしの事などお構いなくさっさと自分の車に乗り込み行ってしまった。
さすが彼側の人間…
こういうとき本当に薄情だと思う。
「さぁ、僕達も行こうか。
遅刻してしまうからね」
そう言ってすでに助手席を開けて『どうぞ』なんて手招きされてしまい、交通手段を失ったわたしは、渋々言う事を聞かざる得なかった。
せめて後ろの席が良かったな…
そして先が思いやられるんですが…