無彩色なキミに恋をして。
片道10分の魔のドライブに朝から気分最悪で
早く到着してほしいと願いながら窓の外をずっと眺めて運転席に見向きもしないでいると、それはそれで彼は何かを察したみたい。
「そんなに警戒しなくても
襲ったりしないから大丈夫」
運転しながら話し掛けてこられ
人として無視するのもどうかな…って、つい良心が働いて嫌でも顔を向けてしまう。
「そういう問題じゃないんです。
そもそもわたしの迎えになんて来て
あなたは仕事大丈夫なんですか?」
「そうだね。《《社長》》も承知だし全然平気」
「…そうですか」
それもそっか、って納得。
お互いの両親が決めた婚約だから
”それくらいの事”なんだろうな。
「帰りは何時?」
「…どうしてです?」
「どうしてって…
そんなの送っていくからに決まってるでしょ?」
決まってるって…
決まってないよ、別に。
それはいつも燈冴くんの役目。
わたしの隣にはいつも彼がいて
一緒に帰って『またね』って笑顔で別れて。
『おはよう』も
『ただいま』も
そして『おかえり』も…
わたしが知っている”隣”は、燈冴くんだけ。
考えれば考えるほど
想う気持ちが強くなって、寂しくなる…
「すみませんが…
独りで帰るので、送りは必要ありません」
窓の外に目を移し
鮎沢さんの優しさを断った。